魔法少女リリカルなのはFate 〜赤き錬鉄の魔術使い〜

1章1節 邂逅



4月26日

外の世界と結界によって隔たれた封鎖結界内。
そこでは白と黒の2人の幼い魔導師が空中で対峙していた。
彼女達の下、街の大通りでは1匹のフェレットらしき生き物と、オレンジ色の毛色をし、額に赤い宝石のようなものをつけた大型の狼が互いににらみ合っていた。
彼女たちは今も大通りの中心に浮かび、輝き続ける大いなる力を秘めた青い宝石『ジュエルシード』を求めて競い合う者たちであった。
その内の白い魔導師――高町 なのはは黒き魔導師――フェイト・テスタロッサに話しかける。
彼女がフェイトに問うのはジュエルシードを求める理由。
なのはは自分の戦う理由、ジュエルシードを求める理由をフェイトに話し、その上で彼女の理由を聞きたかった。
なのはにとって、フェイトはライバルであると同時に放っておけない少女だったのだ。
だから、なのははフェイトのことが知りたかった。

「これが私の理由!」

なのはの話に、彼女の自分に対する態度に思うところがあったのか、フェイトは暫くの沈黙の後に躊躇いを見せつつも話そうとした。

「・・・・・・私は・・・」

「フェイト!答えなくていい!!」

それをオレンジ色の狼――アルフが遮る。
彼女はフェイトの使い魔であり、同時に今現在フェイトを最も想う者であった。

「優しくしてくれる人たちのとこで、ぬくぬく甘ったれて暮らしているようなガキんちょになんか、何も教えなくていい!」

「えっ?」

最初、なのははアルフの言っている意味が良くわからなかった。
彼女はそれが普通のことだと考えていたからだ。
だが、かつて自分も一人寂しい経験をしたことがある。
故になんとなく少しだけ分かってしまった。フェイトの寂しげな光を宿した瞳の理由が。

「あたしたちの最優先事項はジュエルシードの捕獲だよ!」

アルフのその言葉に、一度目を瞑り迷いを払ったフェイトは、再び鎌の形状をしたデバイス『バルディッシュ』を構え直す。

「なのは!」

それを見て取った薄茶色の毛色をしたフェレット――ユーノ・スクライアがなのはに警告を発する。

「大丈夫!」

それをなのはは心配要らない、と彼女の杖型のデバイス『レイジングハート』を構えたまま返す。
暫く睨み合っていた二人だったが、突如としてフェイトがジュエルシードの方を振り返る。
なのはの一瞬の動揺。
その隙にフェイトは空中をジュエルシードに向かって駆ける。
なのはも慌てて、自身の最速をもってフェイトを追う。
空をジュエルシードに向かって凄まじい速度で降下する2人。
先に出たフェイトに漸くなのはが追いつき、二人同時にデバイスをジュエルシードに向かって突き出す。

ガキッ!!

鈍い金属音と共に、2人のデバイスがジュエルシードを挟み込むようにして衝突する。

「うわ」

「え?」

ユーノとアルフのそれは驚きか。
一瞬静止する世界。
その静寂を破るように、なのはとフェイトのデバイスに無数の亀裂が奔る。
同時に光の柱が立ち上り、次いで光が広がると共に凄まじい衝撃波が2人と世界を襲った。

「きゃあぁぁぁー!」

「うっ・・・くうぅぅ・・・!」

2人は為す術もなくその衝撃波で弾き飛ばされる。

「なのは!」

「フェイト!」

ユーノとアルフが反射的に2人の名前を呼ぶ。
フェイトは衝撃波で吹き飛ばされたものの、なんとか空中に踏みとどまった。
なのはは咄嗟に勢いを殺し、静かに通りへと着地する。
ジュエルシードを中心に広がっていた光は、再び光の柱となって空を突き上げる。
そして同時に大地が揺れる。
立っていられないほどではないが、強い揺れ。
暫くして激しい光の柱と大地の揺れは次第に収まっていった。
それを確認したフェイトは直ぐにバルディッシュに目をやり状態を確認する。
バルディッシュの状態は酷いものだった。中枢区画である黄色い宝石のような部分まで少しではあるがヒビが入っている。

「大丈夫?戻って、バルディッシュ」

『Yes sir』

バルディッシュは黄色い三角形の宝石の様な形をした待機状態に戻り、フェイトの右手の甲に納まった。
それを確認すると、フェイトは目の前に浮かぶジュエルシードを睨み据える。
そのジュエルシードは、まるで心臓のように脈動しているかのようだ。
高度を落とし、地面スレスレで浮かぶフェイト。
彼女は一旦後ろに下がりながら屈伸し、勢いを着けてジュエルシードへ向かって飛ぶ。
右手を差し出すフェイト。
しかし、そこでジュエルシードが再び大きく脈打った。

「っ!?」

フェイトは異変を感じ取り急制動を掛ける。
フェイトが制動を掛けるのに一泊遅れて、再びジュエルシードから光の柱が立ち上る。
だが、今度は衝撃波が発生しない代わりに空中にヒビが入り、白い『孔』が開く。
空間に穿たれたその『孔』は、人一人が余裕で入るような大きさまで広がると、赤い何かを吐き出した。
その赤い何かは道路に放り出され、倒れこむ。

「「「「っ!?」」」」

その赤い何かの正体を見咎めた4人は驚愕した。
なぜなら、空間に開いた白い『孔』が放り出したのは、赤い外套を見に纏い、全身に傷を負った一人の少年だったのだから。



interlude

白い光を帯びた『孔』に飲み込まれた士郎は、光の空間を漂っていた。
いや、漂っていたというほど生易しいものではなかった。
まるで全身が捻られるような、押しつぶされるような重圧。シェイカーの中で文字通りシェイクされるようにかき乱される体内。奪われていく体力と魔力。
薄れていく身体の感覚と意識。まるで存在そのものが希薄になっていくようだった。
だが、その薄れゆく意識の中で、とてつもない不快感や苦痛を感じるものの、士郎の思考は妙にハッキリとして澄み渡っていた。

(・・・・・・さすがにこれはマズイ、か・・・・・・)

そのクリアな思考はいま自分がどんな状態なのか、朧気に理解する。
こうなってしまっては死は確実だ、と。
たとえ死にはしなくとも、永遠にこの空間に閉じ込められ、漂うことになるだろう。
今まで自身の死を感じたことは数多くある。しかし、これほど自分の存在が希薄に感じられたことは無い。

(・・・・・・すまないな凛、セイバー。君達の見ていないところで死なないと約束したというのにな・・・・・・)

後悔は無い。未練も無い。
ただ、あるとすればこの入り口である『孔』があった場所の心配と、凛達との最後の約束まで破ってしまったための罪悪感だった。

(・・・最後までこんな有様か・・・全く俺らしい・・・・・・)

最後に自嘲気味に呟いてみたが声が出ない。そもそもこの空間に音や空気といったものが存在するかも怪しいものだった。
士郎は自分の最後を受け入れようと目を閉じようとした。
もっとも、眼前は白い光一色であり、加えて今の自分に目蓋があるのかすらもう分かりはしないが。

――だが、その中で一筋の光が見えた。

光の中で光を見るというのもおかしな話だが、士郎には確かにその光が見えた。
士郎にとってそれは僅かな希望の光のように感じられた。

(・・・・・・まだ死ねない、ということか・・・・・・)

これが本当に希望の光なのかは分からない。
しかし、賭けてみる価値はあると士郎は感じた。

(・・・ならば賭けよう。その唯一つの希望に!)

士郎はもはやあるかどうかも分からない右手を光に向かって伸ばした。
そして視界にははっきりと、光に向かって伸ばされた自分の右手が映っていた。

interlude out



突如として白い『孔』から現れた少年に硬直していたなのは達だったが、先ほどまで光を放っていたジュエルシードから光が収まるの感じ、少しだけだが動揺から立ち直る。
そしてジュエルシードの光が収まるのと同時に、空間に開いた『孔』も完全に閉じる。
その場に残ったのは少年と、まるで力を使い果たしたかのように不安定に空中に浮かぶジュエルシードだけだった。
暫く沈黙していた4人だったが、動揺からいち早く立ち直ったアルフが飛び出し、ジュエルシードを咥えてフェイトの元へ走る。

「アルフ?」

「ジュエルシードは手に入れたんだ。さっさとずらかろう、フェイト」

「うん・・・でも・・・・・・」

アルフの言葉に躊躇いながらも同意を示すフェイトだが、その視線は路上に倒れたまま動かない少年に向けられていた。

「今は気にしたってしょうがないよ。ここにはあいつらだっているんだし、目的のものは手に入れた。さっさと逃げた方がいいよ」

「・・・うん・・・・・・そうだね・・・」

暫くの逡巡の後、フェイトはアルフの言う通りにこの場を離脱することに決めた。
フェイトはジュエルシードをアルフから受け取り、アルフと共に空を飛んでその場を離れた。
だが、離脱中に何度も振り返り、その視線はなのはと道に倒れたままの少年に向けられていた。

フェイトとアルフの姿が見えなくなったのを確認したなのはは、急いで道に倒れている少年に駆け寄った。
少年の歳は一見したところなのはよりも若干上、恐らくは12・3歳前後。
髪は色の抜けた白髪で、肌は褐色。服装は黒いボディーアーマーとパンツ、その上から赤いジャケットのようなものを着て、マントのようなもの腰に着けている。ぱっと見バリアジャケットに見えないことも無い。
だが、その服は全て少年よりも大きく、ブカブカだった。

「・・・酷い傷・・・」

なのはなそんな少年の容姿よりも、彼の負っている傷の方が気になっていた。
全身傷だらけで、赤いジャケットも黒いボディーアーマーもボロボロだった。
傷はかすり傷程度のものから、鋭利な刃物で傷つけられたようなものまで様々だ。

「ユーノ君、治せる?」

「待って・・・・・・確かに酷い傷だ。・・・治せないことはないけど、僕の治癒魔法でも完全に治すのは無理だと思う」

そう言いながらユーノは少年に治癒魔法をかける。
少しずつではあるが少年の傷が塞がっていく。
だが、全ての傷が完全に塞がったわけではない。

「・・・今の僕にはコレが限界かな。・・・本当は病院に運んだ方がいいんだろうけど、状況が状況だし、取り敢えずなのはの家に運ぼう」

「うん、わかった」

そう言ってなのはは少年の脇に腕を入れ、肩を貸すようにして持ち上げる。が。

「お、重い〜」

いくら少年とはいえ身長はなのはより高いし、人間というものは意識が無く力が抜けているとそれだけで重たい。なにより小学生の女の子が年上の男の子を持ち上げられるはずもなく、半ば引きずるようにして進む。
仕方なくユーノが魔法で少年の身体を若干浮かし、軽くなったのをなのはが家まで運んでいった。
無論、軽くなったからと言って重さがなくなるわけではない。
家までの道中はなのはにとって、今まで経験したことのない程の重労働だったのは言うまでもない。



家に着いてからも大変だった。
傷だらけの少年を、家族に見つからないように部屋に運び込まないといけなかったからだ。
家族に言って手伝ってもらっても良かったのだが、それではこんな時間に外で何をしていたのかとか、この少年は誰なのか、とかいろいろ説明しなくてはならなくなる。
それに魔法が関わっているのだから、そもそも説明できるはずがない。
仕方なくユーノの魔法で誤魔化しつつ、なんとか少年をなのはの部屋に運び込み、ベッドに寝かせることができた。
今少年が着ている服はなのはの兄、恭也のお古だ。
流石にあのボロボロの外套とボディーアーマーは血だらけで、そのままベッドに寝かせるわけにはいかなかったのだ。脱がせた外套とボディーアーマーはビニール袋に入れて、なのはの部屋の押入れに入れてある。
その服を着せ替える時に、なのはとユーノは驚いていた。
少年の身体にはまだ治りきっていない新しい傷以外に、古い傷痕が数え切れないほどあったのだから。
少年をベッドに寝かせた後、なのはは夜食を取りに下へ降りていった。
その間、ユーノは破損したレイジングハートの方は自己修復機能をフル稼働させ、傷を負った少年にはこまめに治癒魔法をかけていた。
暫くしてなのはが戻ってくる。

「ユーノ君、どう?」

「この子のことなら大丈夫。さっき何度か治癒魔法をかけたから、粗方傷は塞がってるよ。体力をかなり消耗してるらしくてまだ気が付いてないけど、たぶんもう心配は要らないと思うよ」

「そう、よかった〜」

ユーノの言葉に安心したのだろう。なのはは肩の力を抜いて安堵の溜息を漏らした。

「レイジングハートの方はかなり破損は大きいけど、こっちもきっと大丈夫。今、自動修復機能をフル稼働させてるから、明日には回復すると思う」

「うん・・・」

少年のときと比べ、その表情は沈んでいた。
それを感じたユーノはなのはを気遣って声をかける。

「なのはは大丈夫?」

「うん・・・レイジングハートが守ってくれたから・・・」

だが、それは余計になのはの気分を沈めさせるだけだった。
なのははレイジングハートを見ながらポツリと言った。

「ごめんね、レイジングハート」

「・・・うっ・・・」

「「!!」」

その時、ベッドの方から呻き声が聞こえた。
2人は慌ててベッドの方を振り返り、ベッドに近寄る。
なのはが近づくと少年の目が弱々しくではあるが開かれようとしていた。

「よかった、気がついた・・・」

なのはは少年が目を覚ましたことで安堵の声を漏らす。
ユーノも安堵の溜息をついた。
少年はまだ意識がはっきりとしないのか、状況が把握できていないのかは分からないが、辺りを見回していた。

「・・・・・・ここは・・・どこだ・・・?」

「私の部屋だよ。君、道に倒れてたの」

自分の声に応える声があるとは思っていなかったのか、少年は驚いたようだった。

「・・・ここはどこだ?」

今度ははっきりとした声で少年はなのはに質問した。
ユーノがなのはの先ほどの答えよりも詳細に説明する。

「ここは海鳴市という街です。あたなは街中で倒れていて、それを僕達がここに運びました」

まさかフェレットもどきが喋るとは思わなかったのか、再び少年の顔に驚きが浮かぶ。
だが、直ぐに動揺から立ち直ると少年は身体を起こそうとした。
それをなのはが慌てて押さえ込む。

「だめだよっ、まだ寝てないと!今は塞がってるけど、酷い怪我してたんだから!」

少年は暫くなのはの目をジッと見ていたが、観念したのか、それとも起き上がるだけの体力がまだ回復していないのか、再びベッドに身体を横たえた。

「・・・傷の治療を?」

「はい、僕がやりました」

「・・・・・・君は使い魔なのか?」

使い魔という言葉になのはは驚きを、ユーノはやはり、というような顔をした。

「正確には違います。僕の名前はユーノ・スクライア。それでこっちが」

「高町なのは、なのはでいいよ。あなたのお名前は?」

「・・・・・・衛宮、士郎」

ユーノは少年――士郎の質問に名乗り返すことで答え、なのはも自己紹介をする。
士郎の自己紹介が終わると、ユーノが少年に尋ねる。

「それじゃ衛宮さん、お聞きしますがあなたは魔導師ですか?」

「・・・魔導師?」

「違うんですか?」

士郎は魔導師という言葉を訝しんだ。
彼からしてみれば『魔術師』という言葉が出てくると予想していたのに、出てきた単語は『魔導師』だ。
そしてよくよく考えてみれば、士郎は自分が今どのような状態なのか、どのような状況に置かれているのかも把握できていない。
サッと自分の状態を解析してみる。
身体に傷は負っているもの、当初士郎が負っていた傷よりも大分良くなっている。体力・魔力共に底をついているが身体に異常はない。強いて言うならば身体が縮んでいることか。
続いて感覚を研ぎ澄まし、辺りを探ってみる。
しかし、探ってみてわかったのはこの周辺には異常はないということ。結界すらも張られていない。
目の前の少女、なのはから異常とも言えるほどの膨大な魔力を感じている所為で、詳細には辺りを探れないが。
そこから士郎は目の前のなのはとフェレットの姿をしたユーノが、魔術師に近い存在ではあるが、魔術師とは異なる存在、ユーノの言葉を信じるなら魔導師と呼ばれるものなのだろうと結論付けた。

(・・・まずは状況確認が最優先、か・・・)

そう判断すると、状況を少しは知っていそうな目の前の2人(?)に状況を聞いてみることにした。

「・・・・・・似たようなものだ。だが、こちらとしても混乱していて状況が把握できていない。すまないが今の状況が知りたい。詳しく話してもらえないかね?」

「わかりました。僕からお話します」

そう断ってからユーノは説明を始めた。
まず、士郎が出てきたときの状況。そしてそこへ至るまでの過程。
ジュエルシードがどういったものなのかや、それを探す理由なども全て話す。
もちろんユーノとなのはとの出会いも。
士郎が魔導師のことを聞いてきたときは、魔導師はどういったものなのか、また使う魔法はどんなものなのかも丁寧に説明した。
魔法については実際に簡単なものを見せたりもした。
それを見て聞いた士郎の結論は、この世界は『平行世界』だということだった。

(そんなバカな・・・・・・ここは『平行世界』だというのか!?そんな筈は・・・・・・いや、冷静になれ衛宮士郎! 落ち着いてよく考えてみろ・・・・・・)

士郎は咄嗟に浮かんだ『平行世界』という結論を頭を振って否定したが、やはりよく考えてみると、もうそれしか思い浮かばなかった。

(よく考えればよく考えるほど・・・魔法と呼ばれるものからして、ここは俺の知っている『世界』ではないとしか思えない・・・・・・。魔法と呼ばれるものの方向性や威力、システム、術式、全てが魔術とは異なっている。それに魔力の発生器官も魔術回路ではなく、リンカーコアと呼ばれるものだと言うしな・・・。そもそも俺の知っている限り、日本に「海鳴市」という街は存在しない。・・・そうなると冬木という街や魔術が存在しない可能性もある。魔術が存在しないのであれば魔術師も存在しない。それに・・・)

そう考えて士郎はなのはをチラリと見た。
その視線を受けたなのはは不思議そうにしている。

(このような異常な魔力を持つ者が突発的に発生するなど考えにくい。・・・可能性の上ではいたとしても不思議ではないが、今のように平穏に暮らせることは、俺の知る『世界』では可能性は極端に低い)

そう、士郎がいた元の世界ではこれほどの資質を突発的に得た者の末路は大抵決まっている。
魔術師協会に無理やりにでも魔術師として仕立て上げられるか、どこかの魔術師が自分の系譜か血筋に組み込もうとするか・・・。
それだけならばまだマシな方である。酷いものでは実験台や生贄にされたり、邪悪なものを無意識に引き寄せて、周りの者共々不幸に見舞われる者もいる。

(加えて、魔術師が存在したと仮定しても、結界を張っていたといえ、そこまで大規模な魔力の反応を魔術師や魔術師協会が見落とすとは考えられんな・・・・・・。だとすれば、やはり『平行世界』以外にありえないか・・・・・・)

士郎は今度は視線を窓の外へと向けた。

(それならば先ほどから感じていた、この異常なほどの大源(マナ)の濃度にも説明がつくな。たとえ極上の霊地であったとしても、大源の濃度がこれほど高いのは通常あり得ん。それはつまり、大源を汲み上げる者がいない、あるいは極端に少ないからだろう。・・・・・・本当に困った。)

落ち着きを取り戻した――とはいってもそうそう納得はできないが・・・――士郎は視線をユーノとなのはに戻した。
幾つか彼女達に確認しておきたいことができたからだ。

「大筋においては理解した。次元世界というのが良く解らんがな。・・・ユーノ・スクライア、君は次元空間というものを超えてここにいる魔導師なのだろう?その魔導師の組織は存在するのか?」

「はい。次元世界を管理する時空管理局という組織が、それに該当すると思います。ただ、魔導師だけの組織というわけではなくて、魔導師ではない人もたくさん勤務してます。・・・それと僕のことはユーノでいいですよ」

「そうか」

管理局という言葉と、ユーノが「勤務」という言葉を使ったということは、一種の管理機関のようなものだろうと士郎は結論付けた。
それも魔術師協会のように裏の組織ではなく、公の会社や行政機関のようなものだろう、と。

「もう2つほど構わんか?」

「はい、なんですか?」

「その時空管理局が管理している世界についてなのだが、この世界も管理されているのか?」

「いえ。この世界は管理外の世界なので、97番管理外世界という番号で識別されています」

「そうか。ではもう一つ。その管理を受けるに当たって、何か基準のようなものはあるのかね?」

「基本的には魔導文明を持つ世界に限定されています。ただ、例外も幾つかあるのではっきりとしたことは言えないんですけど」

ユーノの答えを聞いて、士郎はこの世界にほぼ魔術師が存在しないと考えていた。
もし本当にそうなら、『ここ』が『平行世界』であることはほぼ間違いなくなる。

(・・・・・・なんでさ・・・・・・)

そうやって自分の思考に没頭して、溜息を吐きつつ、嘗ての口癖を心の中で洩らしていた士郎に、今度はユーノから質問が投げかけられる。

「それで衛宮さん」

「ん?何かね?」

「あなたはどうしてあんなに傷だらけで、あの『孔』から出てきたんですか?それに魔導師と似たようなものって・・・」

士郎は考えた。ここで全てを話してしまっていいものかと。
その時空管理局や魔導師たちが、今士郎の考えているようなものであれば大した問題はないだろうが、もし万が一自分の使う魔術や平行世界のことを知られてしまうと、後々厄介な事態になるかもしれない。
そう考えると、ここでは迂闊に喋ってしまうわけにはいかなかった。
士郎はある程度真実と嘘を織り交ぜて、肝心な部分は適当に誤魔化してしまうことにした。

「ああ。・・・まず私が魔導師のようなものと言ったのは、私も魔力を使った術を使うからだ。ただ、あくまで感覚的なものなので、魔導師のように術式を組んだりはしないのでな。だから似たようなものだと言ったのだ。そして私がなぜその『孔』から出てきたかだが・・・・・・正直私にも解らん。どこかの街で誰かと戦っていたのは覚えているのだが、記憶に混乱が見られ、非常に曖昧だ」

「そうですか・・・」

ユーノは何かを考えるようにして俯いてしまった。
士郎は魔術に関しては多少嘘を吐いたし、『孔』に飲み込まれる前のことはぼかしたが、『孔』のことに関しては本当だった。
現状、自分がどういう理屈でここにいるのか、士郎は本当にわからなかった。
そしてユーノと入れ替わりに、今度はなのはが士郎に質問してきた。
その態度は興味津々といった風だ。

「ねえ、衛宮君が言ってた術ってどんなものなの?」

「そうだな・・・・・・ユーノ、魔法に物を転送できるものはあるか?」

「え?はい、ありますよ」

「ふむ、私もそれと似たようなことができる。ただし、極限定的なもので、私が所有している『蔵』のような場所から、そこに入れられたものを持ってきたり戻したりすることだけだが」

「へ〜。どんなの?見せてくれる?」

士郎は少しここで見せてもいいか迷ったが、いずれは見せることになるだろうと思い、見せることにした。
それにこの世界に魔術の基盤が存在すのかも確認しておきたかったのだ。
だが、今は魔力が底を突いているので見せることができないことを思い出した。

「・・・すまんな。今は魔力が底を突いているので見せることができん」

「そうか〜」

なのはは士郎の言葉を聞いて少し残念そうだ。

「魔力が戻ったら見せてやろう」

そう士郎が言うと、今度は周りで花が咲き誇りそうなほどの笑顔を見せる。

(裏表なく、感情表現が豊かな子だ)

それが士郎のなのはへの印象だった。
その後は暫く今後どうするかという話になったのだが、士郎はここでなのは達への協力を申し出た。
最初は驚いていた2人だったが、今日助けてもらったお礼と、一宿一飯の恩があるからと言うと2人は士郎の申し出を渋々だったが受けてくれた。
もっとも、士郎としては借りがあるだけではなく、この子達と一緒にいれば色々なことが解るかもしれないという打算があってのことだったが。
それにジュエルシードと呼ばれるトラブルの種を放っておくことが、士郎にはできなかった。
その日は夜も更けてきたので、それでお開きとなった。
ユーノの話では明日の夕方には歩けるようになるだろうということだったので、士郎は今日と明日はしっかりと休むことにした。
士郎はそのままなのはのベッドを借りて眠り、なのはは押入れから予備の布団を出してそこで眠った。

こうして物語は本来の道筋を外れ、新たな物語を紡いでいくのだった。




あとがき
相変わらず文章下手ですね〜、お恥ずかしい・・・。

士郎の登場シーンですが、一般的(?)ななのはが魔法少女になる前より、事件の最中の方がインパクトがるのではないかと思ってやってみました。でもこの登場の仕方の難点ってフェイトやなのはと関わる時間が凄く短くなることなんですよね〜。
まあ、そこらへんは海上決戦までの10日間で何とかしてみます。

それでは、この作品に対しての御意見・御感想をお待ちしております


2010.07.31
若干修正


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